
2016年に刊行され、「映画は牛からできている」「すべての映画は平等である」といった鮮烈なフレーズとともに、映画を物質として捉える新たな視座を提示した岡田秀則の著書『映画という《物体X》 フィルム・アーカイブの眼で見た映画』が、このたび重版となった。刊行から9年、映画保存への関心が高まりを見せる今、あらためて注目される一冊である。
著者の岡田は、国立映画アーカイブの主任研究員として数々の映画資料の収集・保存・教育に携わり、また展覧会のキュレーションや映画史の執筆でも高い評価を受けてきた人物だ。本書は、そうした現場での知見をもとに「映画とは何か」を問い直す試みであり、理論書でも批評でもなく、「映画の実体」に迫るユニークな構成となっている。

刊行当時、本書は「キネマ旬報映画本大賞」第1位に輝き、映像文化を考える上での新たな参照点となった。巻末には蓮實重彥との刺激的な対談「シネマテークの淫靡さをめぐって」も収録されており、映画の保存と享受のあり方をめぐる知的冒険が展開される。
重版にあたり、初版刊行時に寄せられたフランス文学者・中条省平による推薦コメントにも再び注目が集まる。彼は「映画についてこんな視角が可能であるとは思いもよらなかった」と述べ、本書を「新しい映画スタイリスト」の登場と評している。
なお、紙幅の都合で掲載できなかった蓮實氏との対談の続きは立東舎のウェブサイトにて公開中である(こちらから閲覧可能)。
映画を「保存する」という営みから、映画そのものを問い直す──。すでに観た映画も、これから出会う映画も、その存在の重さと意味を考えさせてくれる本書は、すべての映画好きにとって新鮮な一冊となるだろう。
『映画という《物体X》 フィルム・アーカイブの眼で見た映画』
著者:岡田秀則
定価:2,750円(税込)
発売日:2016年9月23日(2025年4月10日重版)
発行:立東舎/発売:リットーミュージック
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