
ヌーヴェルヴァーグの陰影にひっそりと埋もれていた、もうひとつの“青春映画の到達点”。忘れ去られた名匠ギィ・ジル監督による初期2作品、『海辺の恋』(1963)と『オー・パン・クぺ』(1967)が、2026年4月18日(土)より日本公開されることが決定した。舞台は60年代フランス。そこに刻まれたのは、時代の熱と、愛の不在がもたらす静かな痛みだ。
“忘れ去られたヌーヴェルヴァーグの名匠”ギィ・ジルという存在
ギィ・ジルは、生前ほとんど知られることのなかった映画作家である。しかし2000年代以降、シネマテーク・フランセーズや各国映画祭での回顧上映をきっかけに再評価が進み、いまや“ヌーヴェルヴァーグの影に咲いた詩人”として語られる存在となった。
その映像は常に私的で、繊細で、そして痛切だ。恋、記憶、不在、時間。派手な革新ではなく、感情の襞をすくい取るように、映画は静かに観る者の心へと入り込んでくる。

『海辺の恋』 ── 夏の終わりに取り残された、若者たちの愛
1963年に完成した長編デビュー作『海辺の恋』は、ロカルノ国際映画祭で批評家賞を受賞した一作。夏の海辺で出会ったジュヌヴィエーヴと水兵ダニエル。ヴァカンスの終わりとともに、ふたりは別々の街へと戻り、手紙だけが愛をつなぎ止めていく。
この物語が特別なのは、ギィ・ジル自身が“友人役”として画面に現れる点だ。個人的な記憶がそのままフィルムに溶け込み、恋愛映画は単なるフィクションを超えて、記憶と現実が交差するポリフォニーへと変貌する。
ジャン=ピエール・レオ、ジャン=クロード・ブリアリ、アラン・ドロン、ジュリエット・グレコといった60年代フランスを象徴する俳優たちが、さりげなく物語を彩るのも見逃せない。
『オー・パン・クぺ』 ── 愛の不在が、時間を止める
続く第2作『オー・パン・クぺ』は、亡き恋人の記憶とともに生き続ける女性ジャンヌの物語。現在をモノクロで、追想をカラーで描き分ける映像構成は、観る者の感情を静かに揺さぶる。
この作品を観た作家マルグリット・デュラスは、「映画において、かつてなかった愛の表現」と絶賛した。抱擁ではなく、顔と視線によって語られる愛。失われたものが、なお強く存在し続けるという逆説。その詩的表現は、いまなお鮮烈だ。
恋と記憶をめぐる“音楽のような映画”
ギィ・ジルの映画は、ストーリーを追うというよりも“聴く”感覚に近い。映像は旋律のように流れ、感情は余韻として残る。だからこそ音楽ファン、レコード愛好家、60年代カルチャーに惹かれる観客にこそ届いてほしい作品群だ。
公開から60年以上の時を経て、忘却の海から浮かび上がる2本のフィルム。それは、いまの私たちにこそ必要な「愛と別れの記憶」なのかもしれない。

公開情報
『海辺の恋』/『オー・パン・クぺ』
2026年4月18日(土)より
シアター・イメージフォーラムほか全国順次公開
配給:クレプスキュール フィルム
60年代フランス映画の深層に眠っていた、静かで、決定的な輝き。
この春、スクリーンで確かめてほしい。
