静寂に触れるための一音──デヴィッド・ムーア、新作ソロ・アルバム『Graze the Bell』から「Offering」公開

Bing & Ruthのメンバーとして、またSteve Gunnとの共作でも知られるピアニスト/作曲家デヴィッド・ムーアが、名門RVNG Intl.より2026年1月30日にリリースするピアノ・ソロ・アルバム『Graze the Bell』から、新たなシングル「Offering」を映像とともに公開した。長年にわたるアンサンブル活動を経て、彼が再び“ピアノの原点”へと向き合った、その静かな決意を刻む一曲だ。

アンサンブルの果てに辿り着いた、ソロ・ピアノという帰還

『Graze the Bell』は、Bing & Ruthとしての活動や数多のコラボレーションを通じて音楽を精製してきたデヴィッド・ムーアが、あらためてソロ・ピアノ表現へと立ち返った作品集である。反復、間、余韻──最小限の要素に徹底的にフォーカスした演奏は、内省的でありながらも、強い集中力と存在感を湛えている。

それは特定の場所や過去への回帰ではなく、自身の内側にある“光の中心”へ戻るような感覚。20年に及ぶアンサンブルの旅路を経たからこそ生まれた、静かで確かな到達点だ。

新曲「Offering」──祈りのように響く、変化の只中で生まれた音

先行シングル「Offering」は、変化と挑戦の時期に書かれた楽曲。祈りにも似たフレーズがゆっくりと展開し、聴き手の意識をピアノの“響きそのもの”へと導いていく。過剰な装飾を排した、極めてシンプルで誠実な一曲は、デヴィッド・ムーアの現在地を雄弁に物語る。

手仕事から生まれた映像表現──音と刺繍が交差するビジュアル

ミュージック・ビデオはNick Vranizanとの共作。アルバム・アートワークに用いられたクロスステッチの質感や構造を映像へと落とし込み、手触りのある表現に昇華している。生成AIは一切使用されておらず、発想と手作業の積み重ねによって完成した映像は、音楽と同様に“時間”と“集中”を内包した作品だ。

「ベルにかすかに触れる」ための音楽

タイトルの「Graze the Bell(ベルにかすかに触れる)」という言葉は、人生における頂点やゴールを否定し、“いまここ”に確かな実感を見出すための比喩だという。完璧さや到達点を求めるのではなく、偶然や揺らぎ、微細な音を受け入れること。その姿勢は、ピアノの一音一音にまで深く浸透している。

ニューヨーク州マウント・ヴァーノンのOktaven Audioで録音された1987年製ハンブルク・スタインウェイModel Dの豊かな響きと、ベン・ケーンによる実験的なプロダクションが、音の陰影と沈黙に触れるような感覚を際立たせている。

内面と向き合うための、静かな地図

刺繍によるカバー・アートワークや、制作期間に並走した個人的な出来事、そして自身のメンタルヘルスとの対話──『Graze the Bell』は、デヴィッド・ムーアの人生そのものが織り込まれた作品でもある。反復するメロディは“隠された地図”のように、聴き手を内面の奥深くへと導いていく。

人間性が日々消耗されがちな時代にあって、このアルバムは、私たちが本来“帰るべき場所”として知っている心の響きを、そっと呼び覚ましてくれるだろう。

Artist: David Moore
Title: Graze the Bell
Label: PLANCHA / RVNG Intl.
Cat#: ARTPL-249
Format: CD / Digital
CD Release Date: 2026.01.30
Price(CD): 2,200 yen + tax

※ボーナス・トラック1曲収録
※解説付き予定

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