落下の行方を聴け──ルクレシア・ダルト、「caes」を再解体した新章「caes (a suerte)」をサプライズ公開

コロンビア出身、ベルリンを拠点に活動するエクスペリメンタル・アーティスト、ルクレシア・ダルトが突如として新作「caes (a suerte)」を発表した。2025年の年間ベストに多数選出されている最新アルバム『A Danger to Ourselves』収録曲「caes」を、イ・ラ・バンバのルス・エレナ・メンドーザ、ニーニョ・デ・エルチェ、そしてビクトル・エレーロとともに再構築した意欲作である。

「caes」をめぐる、もうひとつの現実

本作「caes (a suerte)」は、カミラ・マンドーキをフィーチャーしたオリジナル版をいったん解体し、その核心のみをすくい上げるように再編された作品だ。幾重にも重なるヴォーカル・ハーモニーが織りなす親密な空間、ミニマルで質感豊かなパーカッションの断片、そしてエレーロによる静謐なアコースティック・ギター。そのすべてが、音数を抑えながらも張りつめた緊張感を保ち、聴き手を深い集中へと導いていく。

「もし落ちるとしたら、あなたはどこに落ちる?」という問いが、ここではより静かに、しかし確実に響く。

3つの視点が交差するEPとしての「caes」

今回のリリースは、オリジナル版「caes」、Y La Bambaらによる再構築版「caes (a suerte)」、そしてニック・レオンによるダブ・リミックスを加えた3曲入りEPとしてデジタル配信されている。それぞれが同一のモチーフを異なる角度から照らし出し、楽曲そのものが変容し続けるプロセスを可視化している点も興味深い。

危うさの一年を閉じる、静かなブックエンド

「caes (a suerte)」は、『A Danger to Ourselves』が残した緊張と余韻にそっと蓋をするような“ブックエンド”的存在でもある。2026年に予定されているUS、UK、ヨーロッパ・ツアーの発表と呼応しつつ、同時にルクレシア・ダルト自身の誕生日とも重なるタイミングで世に放たれたこの作品は、公と私、構築と解体、その境界線に立つ一曲と言えるだろう。

ルクレシア・ダルトという現在進行形の表現

2022年作『¡Ay!』が『The Wire』年間ベスト1位を獲得し、実験音楽の枠を越えて評価を広げてきたルクレシア・ダルト。デヴィッド・シルヴィアンを共同プロデューサーに迎えた『A Danger to Ourselves』では、フアナ・モリーナやカミラ・マンドーキらとのコラボレーションを通じ、声、リズム、構造の関係性をさらに深化させた。

映画音楽やサウンド・インスタレーションへと活動の幅を広げながらも、彼女の音楽は一貫して「聴く」という行為そのものを問い続けている。「caes (a suerte)」は、その問いが最も静かで、最も鋭く結晶化した瞬間の記録である。

リリース情報

Lucrecia Dalt – caes EP
Label:PLANCHA / RVNG Intl.
Format:Digital EP

Listen / Buy: https://lucreciadalt.bandcamp.com/album/caes-ep

Tracklist

  1. caes (feat. Camille Mandoki)
  2. caes (a suerte) – Y La Bamba, Niño de Elche, Víctor Herrero & Lucrecia Dalt
  3. caes (Nick León Dub)

いま耳を澄まし、その落下を辿ってほしい。
最もリアルで、最もシュールな場所へと届く音が、ここにある。

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