日本ジャズの“知られざる力”が甦る──早坂紗知&Stir Up『Free Fight』、35年越しの公式リイシュー

BBE〈J Jazz Masterclass〉第20弾は、幻のプライベート・プレス

BBE Musicが誇る名シリーズ〈J Jazz Masterclass〉が、記念すべき第20作目として掘り起こしたのは、日本ジャズ史の影に埋もれてきた強烈な一枚。サックス奏者/作曲家 早坂紗知(Sachi Hayasaka) と彼女のバンド Stir Up によるデビュー作『Free Fight』が、2026年2月13日、アナログLPでリイシューされる。

本作は1988年、ジャズ批評家・副島輝人が主宰した私的レーベル〈Mobys〉から極少数のみプレスされた作品。35年以上の時を経て、ついに世界へ向けて正規再発される。

フリー・ジャズ、ポスト・バップ、そして“重いグルーヴ”

『Free Fight』は、フリー・ジャズの即興性、ポスト・バップの構築美、そして身体を揺さぶるヘヴィなグルーヴが共存する異形の作品だ。ジャンルの境界を軽々と越えながらも、アルバム全体には確かな統一感があり、早坂紗知の筋肉質で創造的なサックス・プレイと、驚きに満ちた作曲センスが鮮烈に刻み込まれている。

ローランド・カーク、デヴィッド・マーレイ、オーネット・コールマンからの影響を感じさせつつも、決して模倣には終わらない。このアルバムには、1980年代日本ジャズの“未整理のエネルギー”が、そのまま封じ込められている。

東京ジャズ・シーンとキッサ文化が育んだ音

1960年東京生まれの早坂紗知は、サックス奏者・土岐英史に師事し、ジャズ喫茶文化の只中で腕を磨いてきた。作家・村上春樹が経営していたジャズ喫茶「ピーター・キャット」をはじめ、数々のキッサで働きながら、東京のジャズ・ライフに深く身を浸していったという背景も興味深い。

Pit Innなど名門ライヴハウスでの演奏を重ね、山下洋輔との共演、さらには富士山での演奏(!)まで経験。1980年代後半にはニューヨークへ渡り、フェローン・アクラフ、クリフ・コーマンらと活動するなど、そのキャリアは国境を越えて展開されてきた。

Stir Up──剥き出しのアンサンブルが生む衝動

本作のパワーを支えているのは、Stir Upのメンバーによる強靭な演奏だ。永田利樹(ベース)、緑川敬基(チェロ)、角田健(ドラムス)、久保島直樹(ピアノ)、八尋知洋(パーカッション)、吉田哲二(トランペット)──それぞれが突出した個性を持ちながら、集団即興の中で一気に噴き上がる瞬間を逃さない。

タイトル曲「Free Fight」が象徴するように、このアルバムには“闘争”ではなく、解放としての自由が鳴っている。

オリジナル・マスター使用、決定版リイシュー

今回のリイシューは、早坂紗知本人が提供したオリジナル・マスター・テープを使用し、ロンドンの名門スタジオThe Carveryにてリマスタリング。
さらに、

  • オリジナル・アートワーク完全再現
  • 当時は存在しなかった特製帯
  • 本人によるジャズ人生の語り
  • 未公開写真を含むライナーノーツ

と、〈J Jazz Masterclass〉ならではの丁寧な仕様が施されている。

いま聴くべき“過去の未来”

『Free Fight』は、懐古的な再発ではない。
むしろ、いまの耳で聴くことで、現代ジャズや即興音楽と鋭く共振する“未来の音”として立ち上がってくる。

日本ジャズの奥深さを知るためにも、そしてフリー・ジャズの本質に触れるためにも、本作は必聴だ。

作品情報

Sachi Hayasaka & Stir Up – Free Fight
レーベル:BBE Music
シリーズ:J Jazz Masterclass(第20弾)
フォーマット:1×12インチ・アナログLP
発売日:2026年2月13日
ジャンル:Jazz / Free Jazz


35年の時を超えて解き放たれる、静かで激しい一枚だ。

この記事が気に入ったら
フォローしてね!

  • URLをコピーしました!