
ピアノという“原点”への帰還
ニューヨークの名門レーベルRVNG Intl.より、ピアニスト/作曲家デヴィッド・ムーアの最新ソロ・アルバム『Graze the Bell』が2026年1月30日にリリースされる(国内盤CDはPLANCHAから発売)。ビング・アンド・ルースの中心人物として、また近年はスティーヴ・ガンとのコラボレーションでも存在感を示してきたムーア。本作は彼が長く歩んできたアンサンブル活動から一歩退き、“もっとも純度の高い自分”へと立ち返ったピアノ作品となっている。
『Graze the Bell』は、素材をピアノに限定した極めてミニマルな構造ながら、内面の揺らぎと静かな躍動を同時に宿す一枚である。音が立ち上がるその瞬間から、ムーアがこれまで抱えてきた時間、記憶、精神の気配がにじむように漂う。
ささやかな日常から深遠へ ── 手刺繍アートワークが映す物語
アルバムのアートワークには、ムーア自身が10カ月をかけて手刺繍で仕上げた写真を使用。ノースカロライナ州の海岸で凧を揚げる妻を描いた図案には、制作期間に起きた私的な体験 ── 悲しみも希望も ── が丁寧に縫い込まれている。音と視覚が静かに呼応することで、アルバムは“日常の一瞬が永遠へと触れる瞬間”をすくい上げている。
先行シングル「Rush Creek」が映す〈流転〉のプロセス
先行公開された「Rush Creek」は、ムーアがパンデミック期に暮らしたノースカロライナ州ブラック・マウンテン近郊の小川をモチーフに作曲された。彼は当時の〈不確実性〉や〈流れ続ける時間〉の感覚を、反復するフレーズと淡い強弱で描き出す。
「山のすぐそばの小川の音は、常に私の生活の一部でした。
曲を書いた瞬間、“これはこの川の音だ”と確信したのです。
アクティブで、少し甘くて、演奏していて楽しい曲でした」 ── デヴィッド・ムーア
この楽曲には盟友デリック・ベルチャムが監督した映像作品も付随し、没入的なパフォーマンスを通じてアルバムの世界観をより深く覗き込むことができる。
ビング & ルースを経て辿り着いた、新たな“始まり”
ムーアが率いてきビング & ルースは、最大15名編成からトリオまで多様な姿を経験し、その中心には常にムーアの作曲とピアノ理解があった。本作は、長い年月をかけた“精製”の果てに現れた、新しい出発点とも言える。
録音はニューヨーク州マウント・ヴァーノンの名門Oktaven Audioにて、1987年製ハンブルク・スタインウェイModel Dを使用。グラミー受賞エンジニアのベン・ケーンによるプロダクションは、ピアノそのものが持つ呼吸や揺らぎを極限まで捉え、“沈黙すら響きとして感じられる”ような音像を作り上げている。
“ベルに触れる”という理念
タイトルの『Graze the Bell』は、ムーアが長年抱いてきた「頂点へ向かうのではなく、時にほんの一瞬だけ“ベルに触れる”感覚」を象徴する言葉である。山頂や頂点といった幻想ではなく、“今ここにある音”そのものを受け入れ、偶然も癖も含めて音楽にする ── その態度が、本作全体に深く息づいている。

リリース情報
Artist: David Moore
Title: Graze the Bell
Label: PLANCHA / RVNG Intl.
Format: CD / Digital
Release Date: 2026.01.30
※国内盤CD:1曲ボーナス収録/解説付き予定
TRACKLIST
- Then a Valley
- Graze the Bell
- No Deeper
- Offering
- Will We Be There
- All This Has to Give
- Rush Creek
- Being Flowers
- Pointe Nimbus (Bonus Track)
