
VETHELの特集企画「音楽と〇〇」は、音楽と寄り添うさまざまなサブカルチャーとの交わりを探るインタビューシリーズ。〇〇はアートやゲーム、漫画、映画、ガジェット、建築、グルメ、旅行、乗り物、スポーツ、アウトドア……など何でもあり。音楽とその界隈の関係を語っていただきます。今回のゲストは?
北海道で建築を学び、二級建築士の資格まで取得した姫歌は、いま東京でアイドルとしてステージに立っている。一見まったく別の道に見える「建築」と「音楽」。しかし彼女にとってその二つは同じライン上にある。「どちらもゼロから作り上げていくもの」。空白の図面に未来の生活を描くように、言葉や声を積み重ねて曲を形づくる。完成に終わりはなく、何度でも更新されていく。そして姫歌は言う。「諦めたことがないんです」。迷ったときは、立ち止まるのではなく、別の方向へ進み直す。貯金をしないのも、今を強く生きるためだ。ステージも人生も、常に未完成で良い。いつか自分の名を5万人に呼ばれる東京ドームへ。その構想図は、もう心の中に描かれている。

「フリフリ系じゃないアイドルのオーディション」と言われて(笑)
VETHEL 出身はどちらですか?
姫歌 北海道です。
VETHEL なぜ上京しようと思ったのでしょう?
姫歌 もともと音楽をやりたくて、シンガーソングライターを目指していたんです。通っていた養成所のスタッフさんから「フリフリ系じゃないアイドルのオーディションがある」と言われて(笑)。アイドルは考えていなかったんですけど、年齢的にも挑戦できるタイミングが少なくなってくるので、一度受けてみようと思ったら合格して。そのまま上京しました。
VETHEL 地元ではどんな活動をしていたのですか?
姫歌 自分で作曲したことはなかったんですけど、ギターを少し習いながら、地下の小さなスタジオで月2〜3回ライブをして、カバー曲をずっと歌っていました。いわゆるシンガーソングライターでしたね。
VETHEL 一方で建築に興味を持ったきっかけは?
姫歌 小学校に上がるタイミングで家をリフォームして、祖父母と一緒に暮らす二世帯住宅になったんです。その時、まだ年長さんだったんですけど、家族でモデルハウスをいろいろ見て回っていて。それがすごくワクワクして、めちゃくちゃ楽しかったんですよね。
VETHEL あの感じ、あがりますよね。
姫歌 すごく楽しかったです(笑)。そこから、友達の家に遊びに行っても、気づいたら家の造りを見ちゃうようになって。小1くらいからずっと“家”が好きだったんだと思います。ただ、そのときは「家の仕事に就きたい」までは思っていなかったと思います。でも、自分の部屋の模様替えをしょっちゅうしたり、友達の家の間取りを真似して机の配置を変えてみたり、とにかく「空間をどう変えるか」みたいなことをずっとやってました。ちょっとした変化が好きだったんだと思います。
どっちも終わらなくて、ずっと作り続けていくものなんだ
VETHEL 建築士の資格を持っているそうですね。
姫歌 はい。専門学校2年+建築士専攻の半年間で勉強して、二級建築士を取得しました。そのころはまだ音楽をやるとは思っていませんでしたけど。
VETHEL 音楽に進む決意はいつ?
姫歌 そのころは、あいみょんだったり、あいこさんがすごく好きで……で、アイナ・ジ・エンドさんにハマって、表現力のある歌に惹かれたのが大きいです。そこから音楽のスクールに通い始めました。建築は「いつでも戻れる」と思ったんです。でも音楽は“今”しかない世界だと思ったので。
VETHEL 姫歌さんにとって、建築と音楽はどんな部分でつながっていますか?
姫歌 音楽って、まず歌詞を作らなきゃいけないじゃないですか。ゼロから生み出すところがスタートで。元々あるものを前提にできないっていう意味では、家づくりも同じだなと思うんです。私、前はお客さんとヒアリングしながら設計の打ち合わせをしていたんですけど、まっさらな土地から、場合によっては土地を買うところから一緒に考えて、ゼロから形にしていくんです。最終的には、その人がそこでどう暮らしていくかという未来図まで含めてつくり上げていく感じで。で、音楽の話に戻ると……家もそうなんですけど、「ここが完成」っていう明確なゴールってない気がしてて。どっちも終わらなくて、ずっと作り続けていくものなんだなって、すごく思うんですよ。
どんなステージに立つ時も「毎回100%のパフォーマンスをしたい」
VETHEL 空間によって歌い方は変わりますか?
姫歌 私はけっこう“おしゃれなライブハウス”の雰囲気が好きで。暗めでかっこいい系というか……ああいう空気感にワクワクするタイプなんです。真っ白で綺麗なホールももちろん素敵なんですけど、どちらかというとコンクリートむき出しの、ちょっと無機質な場所の方が好きなんですよね。でも、どんなステージに立つ時も「毎回100%のパフォーマンスをしたい」という気持ちは変わらなくて。会場がどこであっても、そこは同じなんです。
VETHEL 自分の理想のライブハウスを設計するとしたら?
姫歌 窓のないコンクリートの立方体で、ドアが一つ。中の真ん中に円柱状のステージがあって、360度お客さんに囲まれる空間が理想です。背中から見られても構いません。
VETHEL 少し話がそれますが、北海道から東京に来て驚いた建築の違いは?
姫歌 東京ってもっとずっと暑い場所だと思ってたんですよ。だから「冬とかあるんだ……」ってちょっと驚いてて(笑)。今住んでいる家がとにかく寒いんです。すごく機能的な話なんですけど、断熱がほぼないんですよね。夏はめちゃくちゃ暑いし、冬は本気で寒い。外気温がそのまま家の中に出てくる感じで。北海道って断熱がしっかりしてるじゃないですか。冬なのに家の中ではTシャツで過ごせるくらいで。だから断熱って「寒い地域用」じゃなくて、「暑さも寒さも家の中に入れないためのもの」なんですよね。本来は。でも、なんで東京の家は断熱がないんだろうって、北海道にいたときからずっと疑問で。実際に今の家が寒すぎて、さらにその疑問が深まってます。建築的なものとか、ちゃんと見に行ったわけじゃないんですけど、今はまだ渋谷とか飲み街みたいな場所にしか行ってないので。ただ、北海道と東京の建物の違いで言えるのは、とにかく「断熱の弱さ」ですね。これは今でも納得いってません。
ちょっと不便なところがあるくらいの方が、むしろ好き
VETHEL 好きな建物はありますか?
姫歌 私はどっちかというと住宅系が好きなんです。よく「家族で住むかわいいお家」みたいなタイプより、街中にあるおしゃれなカフェとか、そういう空間のほうが惹かれます。前の会社で建てていた家の中に、すごく好きなデザインのものがあって、その影響もあると思います。あと、いわゆる「建築家が考えたこだわりの家」みたいなのより、もっと現実的というか、コンクリートやステンレスを使った住宅の方に魅力を感じます。もともとは隈研吾さんの、木の温かみがある建築が好きだったんですけど、工務店で働きはじめてから、だんだんコンクリートに惹かれていったんですよね。理由は自分でもわからないんですけど、気づいたら「木造の家に住みたい」ってあまり思わなくなっていました。
VETHEL 見た目は計画的な建築と、姫歌さんの“貯金しないスタイル”は矛盾しませんか?
姫歌 そうですね。貯金しないのは、しないというより“できない”のかもしれないんですけど、「明日死ぬかもしれない」って思ったら、今あるお金を使っておいた方が得だと思っちゃうんです。だから買い物に行っても、あまり我慢できなくて、後先考えずに衝動的に買うことも多いんですよね。建築設計って計画性が大事な面ももちろんあるんですけど、私の場合は、動線とか「住んだときにどう感じるか」みたいな想像力の方を優先するんです。お客さんとのヒアリングでも、もちろん予算を考えながら一生に一度の家を作るんですけど、あまり“節約節約”ってやりすぎると後悔が残ると思っていて。だから、計画性が完璧じゃなくてもいい家って作れると思うんですよね。さっき言った「完成形がない」という話にもつながるんですけど、今はリノベとかリフォームも当たり前なので、まずは“今したい形”で作ってみるのも全然アリで。よく「理想の家にするには三回建てないといけない」って言うじゃないですか。あれって、暮らしながら気づいて変えていく過程も含めて、人生として楽しいよねって思うんです。あと私は、便利すぎる家が必ずしも良いと思ってなくて、ちょっと不便なところがあるくらいの方が、むしろ好きだったりします。
今まで「諦めて終わらせた」っていう形で何かをやめたことがないんです
VETHEL 上京生活で折れない心はどこで育まれましたか?
姫歌 うーん、やっぱり育ちの影響もあると思うんですけど、私、今まで「諦めて終わらせた」っていう形で何かをやめたことがないんですよね。どちらかというと、やめるときって「次に進むとき」だと思っていて。方向転換とか、新しい方へ行くときにやめる、みたいな感じで。部活も、小学3年生から高校3年生まで同じものを10年間続けていて、やめる理由がなかったんです。なんか自分の中に「やらずに後悔するくらいなら、やって後悔したい」みたいな方針があって。最後までやり切らないと、きっと後で自分が納得できないと思うんですよね。コールセンターも、他のメンバーは辞めちゃったんですけど、私は辞めなかったんです。プロデューサーに「ここで得られるものがあるはずだ」って言われて、その言葉を信じてみたかったんです。たとえ何もなかったとしても、可能性があるなら進みたいと思った。実際、一人になってから得たものはすごく大きかったです。正直つらいこともめちゃくちゃあったけど、「みんなが辞めたからって流されないで、自分で決めて、自分の足で続ける」っていう経験が一番の収穫だと思ってます。「得るものがあるかもしれない」って思う限り、私は曲げないし、諦めない。今までも、これからも。
VETHEL 最後に。東京ドームでライブができたら、どんな景色を見たいですか?
姫歌 はい。なんか、もうその光景がすごく想像できてるんですよ(笑)。私にとって「一番輝ける場所」って、多分東京ドームなんです。そこが、きっと音楽人生の“最後のステージ”になると思ってて。ちゃんとした意味での、終着点というか。だから今の私のいちばん大きな目標は東京ドームです。そこで、五万人の人が「ひめか!ひめか!」って名前を呼んでくれて、そのあたたかい表情をステージから見渡す光景が浮かぶんです。すごくシンプルなんですけど、それが私にとって一番の夢で。私自身もそこでめちゃくちゃ輝けるし、お客さんにも一緒に輝いてほしいなって思ってます。

Interview & Text : VETHEL
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