
女性監督として初の金熊賞受賞──ハンガリーが生んだ魂の映画作家
1975年、『アダプション/ある母と娘の記録』で女性監督として初のベルリン国際映画祭・金熊賞を受賞し、世界の映画史に名を刻んだメーサーロシュ・マールタ。アニエス・ヴァルダ、アンナ・カリーナ、イザベル・ユペールらからも支持を受けた東欧映画の巨匠が、ついに日本で本格的に再評価される。
2023年に開催された第1章に続き、彼女のフィルモグラフィを新たな視点から紐解く特集上映【メーサーロシュ・マールタ監督特集 第2章】が、11月14日(金)より新宿シネマカリテ、ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国で順次公開される。
今回は、デビュー作から代表的な連作『日記』三部作まで、計7作品を最新のレストア/HDデジタルリマスター版で一挙上映。日本初の劇場公開となる貴重な機会である。
“個人の記憶”と“国家の記録”が交錯する、圧倒的な人間ドラマ
孤児として生きる少女を描いた長編デビュー作『エルジ』(1968)、夫の死と家族の軋轢を描く『月が沈むとき』(同年)、そして労働者の恋と階級差を描いた『リダンス』(1973)。
さらに、血のつながらない男女の不思議な関係を映した『ジャスト・ライク・アット・ホーム』(1978)を経て、マールタの自伝的要素を色濃く映す『日記 子供たちへ』(1983)、『日記 愛する人たちへ』(1987)、『日記 父と母へ』(1990)の“日記三部作”が続く。
冷戦下のハンガリーを背景に、ひとりの女性が「歴史」と「家族」の狭間で生き抜く姿を描いた壮大な叙事詩であり、そこにはマールタ自身の痛みと希望が刻み込まれている。
“マールタ・ワールド”の入口──モノローグ付きビジュアル&予告映像解禁
今回の特集上映にあわせて、7作品それぞれに登場人物の心の声を重ねたモノローグ付きキービジュアルと、作品群のエッセンスを凝縮した入門予告映像が公開された。
映像では、戦後の混乱や社会主義体制下での不自由さ、そして女性たちの葛藤と再生が、静謐な光とともにスクリーンに浮かび上がる。
枝優花(映画監督・写真家)、ゆっきゅん(DIVA)、児玉美月(映画批評家)、四方田犬彦(比較文学研究者)らからのコメントも寄せられ、彼女の作品が世代や時代を超えて新たな共感を呼び起こしている。
「自由も、女性の状況も、まだ良くなっていない」──今こそ観るべき理由
マールタは2023年の日本での特集上映に寄せた手紙で、こう語っている。
「自由の問題も女性の状況も、私が映画を撮った頃からあまり良くはなっていないのです。だからこそ、これらの作品は今の時代にも有効でしょう。」
社会の不条理に翻弄されながらも、自らの意志で生きようとする女性たちの姿。
それは、半世紀を経た現代の私たちにもなお突き刺さる“生”の真実である。
メーサーロシュ・マールタ監督特集 第2章
2025年11月14日(金)より、新宿シネマカリテ、ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国順次公開
公式サイト:meszarosmarta-feature.com
上映作品一覧
『エルジ』(1968)/『月が沈むとき』(1968)/『リダンス』(1973)/『ジャスト・ライク・アット・ホーム』(1978)/『日記 子供たちへ』(1983)/『日記 愛する人たちへ』(1987)/『日記 父と母へ』(1990)
“記憶”が紡ぐ物語の光──今、スクリーンの中で、失われた時代が再び息を吹き返す。
