音が“空間”になる瞬間 ── ジェフ・ミルズ、Apple Musicと語る「Spatial Audio」が描く未来

ジェフ・ミルズが語る、音の新たな次元

デトロイト・テクノのパイオニア、ジェフ・ミルズが、アムステルダム・ダンス・イベント(ADE)にてApple Music主催の特別パネルに登壇した。テーマは「Spatial Audio(空間オーディオ)とイマーシブ・サウンドの未来」。Dolby Atmos Houseで行われたこのセッションでは、音楽体験を根本から変える新技術の可能性について、Apple Musicの主要メンバーと共に語り合った。

パネルには、Apple Music Global Head of Dance, Electronic and DJ MixesのStephen Campbell、Head of D&E Artist RelationsのFrankie Hutchinson、そしてSpatial Audioミキシングの第一人者Clif Norellが参加。ミルズが制作した世界初のSpatial Audio DJミックス「Outer to Inner Atmosphere: The Escape Velocity Mix」や、同技術を用いたアルバム『Tomorrow Comes the Harvest』の制作背景が披露された。

“次元”を超える音楽──ジェフ・ミルズの哲学

ミルズは語る。「リスナーをまったく異なる空間に連れていくこと。それがこの技術の核心だ」。
彼は、音を“場所”として構築することで、聴く者が物理的現実を超えて体験できる世界を提示する。まるで耳で風景を見るかのように、音が立体的に流れ、リスナーを包み込む。

「このテクノロジーは、私がいなくなった後も音楽に関わる方法を残してくれる。私がレコードをどう繋ぐのか、その感覚を未来に再現できるんだ」とミルズは続ける。そこには、アーティストが時間と肉体の制約を超えて音と共に生き続ける、未来的なヴィジョンが込められている。

One Mixと“音の没入体験”の進化

Apple Musicの「One Mix」シリーズは、世界屈指のDJたちによるセットを紹介する看板プログラムである。
ミルズが手がけた『Outer to Inner Atmosphere: The Escape Velocity Mix』は、その中でも初のDolby Atmos対応ミックスとして歴史を刻んだ。宇宙空間をテーマに、地球の重力を脱し、未知の音響層へと突き抜けていく構成が特徴である。Axis Recordsのカタログから選曲されたこのセットは、クラブミュージックとサイエンス・フィクションを融合させた“音の宇宙航行”とも言える作品だ。

音が「時間」と「空間」を変える

ミルズはSpatial Audioの未来をこう展望する。
「私たちはすでに音を3Dで聴いている。しかし、次に必要なのは“視覚”の説得力だ。教室やスタジオ、パフォーマンス空間が変わることで、まるでマイルス・デイヴィスやエンジニアの隣に座っているような感覚を体験できるようになる」。
音が空間を再構築し、記憶と感情をも立体化する──その可能性をミルズは確信している。

そして彼は最後にこう語った。
「もしあなたが『The Bells』を制作している私のスタジオに居合わせることができたなら、あの瞬間の文脈を理解できるだろう。Spatial Audioは、その体験を未来に残す手段なんだ」。

“未来の耳”が聴く音楽へ

ジェフ・ミルズとApple Musicが見据えるのは、単なる高音質や立体音響を超えた“文化としてのサウンド・エクスペリエンス”である。
それは、聴くことが観ることに変わり、音楽が空間を生きる瞬間──。
Spatial Audioは、音が「次元」を持つ時代の始まりを告げている。

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