
ペドロ・コスタの全貌に迫る、東京初の大規模特集上映
東京都写真美術館は総合開館30周年を記念し、ポルトガル映画界の巨匠ペドロ・コスタ監督の特集上映「ペドロ・コスタ インナーヴィジョンズ」を11月27日から12月7日まで開催する。現在、美術館では東京初となる同監督の個展も開催中であり、今回の上映はその関連企画として位置づけられる。初期から最新作までの主要作を網羅した全11プログラムを一挙に上映する、国内でも稀有な機会である。期間中は、コスタ監督本人(オンライン出演)をはじめ、映画人や批評家によるアフタートークも予定されている。






貧困と記憶、沈黙と光──コスタ映画の核心
1989年のデビュー作『血』から、最新短編『火の娘たち』(2023)までを網羅する本特集では、コスタが一貫して見つめてきた「失われゆく人々の生」と「記憶の風景」が浮かび上がる。リスボン郊外のスラム街・フォンタイーニャスを舞台にした代表作『骨』『ヴァンダの部屋』『コロッサル・ユース』では、再開発の波に押し流される庶民たちの姿を、静謐かつ残酷なまでに美しい映像で刻みつけた。
35mmフィルムでの上映が実現する『ヴァンダの部屋』『コロッサル・ユース』は、現代のデジタル時代にあっても“時間そのものを記録する映画”として特別な存在である。また、音楽家ジャンヌ・バリバールを追った『何も変えてはならない』や、移民の記憶と歴史を交錯させた『ホース・マネー』など、ジャンルや国境を越えて“生きることの痛み”を見つめ続けるコスタの映画哲学がここに集約される。






スラムの路地から世界へ──語り継がれる映画作家
ペドロ・コスタ(1958–)は、ポルトガル・リスボン出身。映画学校卒業後に撮った『血』で注目を集め、以後、フィクションとドキュメンタリーの境界を越境する独自のスタイルを確立した。フォンタイーニャスの住民を俳優として迎えた『ヴァンダの部屋』以降、その手法は世界の映画作家たちに深い影響を与えた。彼の作品は、貧困や移民といった社会的テーマを扱いながらも、そこに流れる光と沈黙の詩情が観る者の心を掴む。


上映情報
上映期間:2025年11月27日(木)〜12月7日(日)
休映日:12月1日(月)
料金:一般1,800円/シニア1,500円/学生・中高生・子ども・障害者1,000円
展覧会チケット提示で割引あり。詳細は東京都写真美術館公式サイトを参照のこと。
ペドロ・コスタが見つめ続けたのは、世界の片隅で息づく“生”の光である。
静寂の中に宿る人間の尊厳を、スクリーンの闇がやさしく照らす。
