
VETHELの特集企画「音楽と〇〇」は、音楽と寄り添うさまざまなサブカルチャーとの交わりを探るインタビューシリーズ。〇〇はアートやゲーム、漫画、映画、ガジェット、建築、グルメ、旅行、乗り物、スポーツ、アウトドア……など何でもあり。音楽とその界隈の関係を語っていただきます。今回のゲストは?
阿波おどりのリズムには、決して譜面には書ききれない“即興の熱”が宿っている──そう語るのは、渋谷・点睛連で鳴り物を担当する澄川永漢さんだ。幼少期から阿波おどりに親しみ、踊り手としての経験を経て鳴り物を操る現在に至るまで、その歩みはまるで一人のミュージシャンの成長譚のようである。澄川さんは「阿波おどりの音楽はジャズに似ている」と語る。瞬間ごとに生まれる音、掛け合いによって変化するリズム、そして踊り手や観客との“呼吸の共有”。伝統芸能でありながら、そこには自由でスリリングな音楽の精神が息づいている。本稿では、阿波おどりの鳴り物に潜むジャズの魂、そしてその音に込められた情熱を紐解く。

阿波おどりは刹那的な生音のやりとりが魅力
VETHEL そもそも澄川さんが阿波おどりに興味を持たれたきっかけは?
澄川 そうですね。私の地元が、阿波おどりの大会がずっと行われている地域で。小さい頃から自然と触れる機会があって、小学校のときに初めて参加して以来、気が付けばどんどんハマっていった感じです。
VETHEL 最初は踊りから入られたんですか?
澄川 はい、踊りから入りました。
VETHEL そこから音楽 ── 鳴り物を担当するようになったのは?
澄川 今から10年くらい前に、鳴り物の人が少し足りなかったこともあり、私が担当するようになりました。
VETHEL 阿波おどりで「音楽が一番大事だ」と感じる瞬間って、どんな時でしょうか?
澄川 阿波おどりって“生音”が命なんです。他の多くの伝統芸能と違って、瞬間ごとに音が生まれていく。その刹那的な生音のやりとりが魅力だと思っています。決められた譜面、決められた音を演奏するというより、ジャズのようにその場の空気を感じ取って音を出す。そういう即興性が阿波おどりの素晴らしさだと思うんです。
叩き方についてはまさに“遊び”の感覚
VETHEL 叩き方や吹き方をその場で、即興で変えたりもするんでしょうか?
澄川 もちろん決められた音も存在しますが、その特に叩き方についてはリズムをあえて崩したり、シンコペーション気味に前のめりで叩いたり、掛け合いを入れたり……まさに“遊び”の感覚です。これは阿波おどりならではの音楽的要素だと思います。
VETHEL 点睛連で扱う音楽の中で、特に好きな音や表現ってありますか?
澄川 私たちは本場・徳島の有名連である「新ばし連」と姉妹連なんですが、その新ばし連が得意とする“竹”を私たちも使っています。切り出した竹を乾燥させて、バーナーで焼いて高い音を出せるようにして。二人の竹太鼓の奏者が掛け合いながら高速で叩くんですよ。いわばタップダンスのように。この竹太鼓の掛け合いは、新ばし連とうちの連にとっての特徴的な音ですね。
阿波おどりの魅力の1つは、決められた振付がありそうでないところ
VETHEL 音楽面で「もっとこうしたい」と思うことはありますか?
澄川 個人的にはもっと“ジャジー”になりたいですね。まだまだ決められた音を正確に出すだけで技術的に精一杯なところがあるので、いずれは阿波おどりのトップ団体のように即興的で掛け合いが生まれるような音を作っていきたいと思っています。
VETHEL 即興で叩き方を変えると、踊り手が踊りにくくなるようなことはありませんか?
澄川 そうならないように気をつけています(笑)。鳴り物はあくまでも踊りや観客を支える存在です。音を変えることで「もっと激しく踊ろう」と思ってもらったり、観ている人に「何か始まるぞ」とワクワクしてもらえるような変化をつけられるように意識しています。
VETHEL 踊りに音楽を合わせる? それとも逆ですか?
澄川 どちらもあると思います。踊りに音を合わせることもあれば、音に踊りを合わせることもある。阿波おどりの魅力の1つは、決められた振付がありそうでないところ。全員が同じ方向を向いていたとしても、実は一人ひとりが違う動きをしている。その個性を潰さない自由さが大好きなんです。
VETHEL 演奏が上手い団体や憧れの存在はいますか?
澄川 姉妹連である「新ばし連」はもちろんですし、その「新ばし連」が所属している本場・徳島の「阿波おどり振興協会」も憧れの存在です。選抜メンバーは本当に上手いんです。一人がどれだけ遊んでも場が崩れない。あのスキルセットは尊敬します。やっぱり一人だけ突出して上手くても成立しない。全体のレベルや意識が揃ってこそ成り立つんです。

「踊り手にとって心地いいか」を常に意識する
VETHEL ジャズや他の音楽ジャンルが影響を与えることってありますか?
澄川 阿波おどり全体でいうと、民謡や「ヨナ抜き音階」など日本的な音楽の影響が大きいですね。中には津軽三味線を取り入れる連もあります。私はジャズが好きなので、他の連を見た時に即興で呼吸を合わせる感覚にはシンパシーを感じますね。
VETHEL 練習の際に意識していることは?
澄川 鳴り物目線では大きく三つあります。まず個人のスキルアップ。次に鳴り物同士の協調。最後に「踊り手にとって心地いいか」を常に意識すること。音が合っていても踊り側が「何か違う」と感じたら修正します。お互いの呼吸を合わせるのが大事なので。
VETHEL 観客に“音楽の力”を感じてもらうための演出は点睛連さんの中にありますか?
澄川 先ほども話しましたが、うちは姉妹連である「新ばし連」直伝の竹を使う演出が特徴です。竹が入る瞬間に他の楽器を一斉にミュートして、竹の音だけが際立つように構成しています。竹以外の部分でも、全体を通して構成担当がテンポや明るさ、踊りとの兼ね合いを考えて順番を決めていて、当日はその流れで演奏するんです。
渋谷を中心としたいろいろな人とクロスオーバーしていける活動にしていきたい
VETHEL 澄川さんが阿波おどりを続けてきて「やっててよかった」と思う瞬間は?
澄川 阿波おどりを通じて、本当にいろんな世代の人と出会えることですね。和楽器だからご高齢の方も親しみやすいし、若い人からは「思ったより激しい!」って驚かれる。そのギャップを楽しんでもらえるのが嬉しいです。全世代がハマれる文化って貴重だと思います。
VETHEL 将来的に点睛連の音楽や踊りをどう発展させたいですか?
澄川 私たちは渋谷区の連なので、渋谷を中心としたいろいろな人とクロスオーバーしていける活動にしていきたい。阿波おどりだけのイベントに限らず、他ジャンルの場にも積極的に出ていく。60~70人規模の出演だけじゃなく、小規模でも活動して、より多くの人に阿波おどりを届けたいと思っています。
VETHEL 最後に、好きなジャズについて教えてください。
澄川 昔のニューオーリンズでやっていたような初期のジャズが好きですね。歯が抜けたようなお爺さんたちが集まって、自然発生的に音を鳴らしていくような。BLUE NOTEのような洗練されたジャズももちろん好きですが、路上で生まれる“ガチャガチャしたジャズ”に強く惹かれます。いつかニューオーリンズの街角で、その音を生で感じてみたいです。
VETHEL 素敵なお話、ありがとうございました。
澄川 こちらこそ、ありがとうございました。

Interview & Text : VETHEL
阿波おどり × 渋谷カルチャー実験イベント〈スク乱舞るー渋谷 無礼講の乱ー〉開催


・日時
2025/11/30(日)
18:00 START / 22:30 END(予定)
・会場
SHIBUYA XXI
(渋谷駅徒歩6分の複合カルチャースペース)
https://shibuya-xxi.jp/
・出演
〈阿波おどり〉
点睛連(てんせいれん)
渋谷を拠点に活動する実力派連。
Instagram:https://www.instagram.com/tenseiren_official/
〈DJ〉
サイバーおかん
https://www.instagram.com/cyberokan777?igsh=MW4xbDR4em01M2x4Yw==
yukakichi
https://www.instagram.com/yukakichi_ykkc?igsh=MWNtN2Y2aGFnMGFsaQ==
musasavi
https://www.instagram.com/musasavi?igsh=MWo0Ynpkb3R6eHBxbw==
※敬称略
イベント概要
渋谷で“阿波おどりカルチャー”を広めるべく始動する実験プロジェクト。
第1回となる今回は、渋谷の連「点睛連」を迎え、阿波おどりパーティーを開催します。
ステージで踊るもよし、
フロアで踊るもよし、
ただ眺めて楽しむもよし。
ただし——
「傍観者」はいません。
参加者全員が、その場の“ステージ”をつくる一員として、ぜひフロアを盛り上げてください。
阿波おどりステージのあとは、
サイバーおかん、yukakichi、musasaviによるDJパフォーマンスへ突入。
渋谷の夜に、伝統とクラブカルチャーが混ざり合う特別な一夜です。
同じアホなら、踊らにゃ損!
【タイムテーブル】
18:00-19:30 阿波おどり 点睛連
19:30-20:30 DJ musasavi
20:30-21:30 DJ yukakichi
21:30-22:30 DJ サイバーおかん









