
VETHELの特集企画「音楽と〇〇」は、音楽と寄り添うさまざまなサブカルチャーとの交わりを探るインタビューシリーズ。〇〇はアートやゲーム、漫画、映画、ガジェット、建築、グルメ、旅行、乗り物、スポーツ、アウトドア……など何でもあり。音楽とその界隈の関係を語っていただきます。今回のゲストは?
音楽とガンプラ──一見すると交わらないふたつの世界を、独自の感性で重ね合わせるアーティストがいる。シンガーソングライターonoyutakaは、楽曲制作を「ガンプラの組み立て」にたとえる。設計図をなぞるようにコードやリズムを組み合わせ、最後に自分だけのアレンジで仕上げていく。その創作スタイルは、パーツを一つひとつ丁寧に磨き上げるガンプラ制作の工程と驚くほど共鳴しているのだ。小学生時代の合唱団から音楽に触れ、やがて秦基博の影響でギターとDTMにのめり込んだonoyutaka。彼にとってガンプラは「癒し」であり、音楽は「物語」である。両者の間にあるのは、無限の自由と想像力。onoyutakaが語る「音楽とガンプラ」の接点からは、創作の喜びと可能性が鮮やかに浮かび上がってくる。

音楽ってどうとでも解釈できる
VETHEL そもそも音楽をやりだしたきっかけは?
onoyutaka 小学校5年生のときに合唱団に入るんですが、そこから音楽の楽しさに気づいたって感じですね。
VETHEL そのときはどういう曲を歌ってたんですか?
onoyutaka 一般的な合唱曲だったり。あとは、オペラの楽曲も子役で借り出されて歌ったり。ドイツ語とかラテン語とかも歌ったりしたりしました。
VETHEL 本格的な合唱団だったんですね。
onoyutaka そうですね。区が運営してるものだったので、しっかりしていたなっていうふうには思います。
VETHEL そこで「音楽は自由であるっていう音楽の定義」を教えてもらったそうですが。
onoyutaka 合唱の指揮者の先生が、東京音楽大学の民族音楽研究科の方で伊福部昭さんの弟子の方だったんです。『ゴジラ』って4拍子と5拍子が続くんですけど、あれは、4と5で分けるんじゃなくて9拍子なんだと。それを聞くと、音楽ってもうどうとでも解釈できるじゃないかっていうので……
秦基博さんの影響でアコギに走る
VETHEL 小学校でそんなこと教えてくれた(笑)?
onoyutaka そういう難しいことも含めて、子供たち向けにもっと音楽って楽しんでいいんだよって……例えば歌詞の内容とか、その歌詞からどういうふうに妄想を膨らませるとか、このメロディってこういうふうに動いて綺麗だよね、みたいなのも含めて、音楽ってどうやって楽しむのが正解なんだろうねみたいなところから始まって、音楽って自由じゃない?って。
VETHEL それはいい先生にあたりましたね。そこからまずは吹奏楽に?
onoyutaka その後に中学校の頃に吹奏楽部に所属してました。僕がやってたのがアルトサックスで、僕の両親がトランペットとアルトサックスを吹奏楽でやってたので、親からアルトサックスを借りてやってました。
VETHEL そのままクラシックとかジャズに行ってもよさそうですが、DTMとかギターに行っちゃう。
onoyutaka 小学校に戻るんですけど、親が車の中で秦基博さんを聞いていて、“何、この人めっちゃいい”ってなってドップリ秦基博さんを聞いて。なので、それでアコギに走った感じですね。
VETHEL 合唱団とか吹奏楽で学ぶのと同時に、秦基博さんの曲も聞いてた?
onoyutaka そんな感じです。
ガンプラは癒し
VETHEL DTMを始めて全部自分でやりだしたってことですね。ところで今の演奏スタイルが出来上がったのはいつごろなんですか?
onoyutaka 高校のときからですね。芸術系の高校に行きまして、学校内にホールがあったんです。そこで年に2回ぐらい演奏する機会があって、自分たちでバンドを組んでやるのもいいけど、もうちょっと自分だけでやれるってないかなっていうので、DTMにたどり着いたって感じですね。
VETHEL バンド活動はそんなしてない?
onoyutaka バンド活動はそんなにしてなかったですね。好みじゃないっていうかあんまりいい思い出がない(笑)。
VETHEL onoyutakaさんにとって、ガンプラとはどんな存在ですか?
onoyutaka ガンプラとは一言で言ってしまえば癒しです。


VETHEL 集める楽しみ、組み立てる楽しみ、いろいろありますが。
onoyutaka 僕は組む方ですね。塗装まではいかないんですけど、パーツを切り出してニッパーで整えてヤスリをかけるっていう時間。無心になってやるその時間がめちゃくちゃ至福になってますね。
VETHEL とにかくその間が大事?
onoyutaka そうですね。
VETHEL ちなみに今何体ぐらい持ってますか?
onoyutaka 今、家に10機ぐらいあります。全部色を塗ってない状態なんですけど、実は弟がどちらかというと組むよりも色を塗る方が好きで、なので僕が作って弟が塗るみたいなことになってます(笑)。


ガンプラとDTMは同じ
VETHEL 最初に組んだガンプラの思い出ってありますか?
onoyutaka 最初に組んだのがガンダムAGEという作品があるんですけども、お父さん世代がだいぶ増えてきて、子供の新規獲得って難しいよねって話になったときに、『イナズマイレブン』を制作してるレベルファイブと一緒に組んだら、子供まで確保できるんじゃないかっていうことで制作されたそうなんですよ。その中の「ガンダムAGE-2 ノーマル」という機体がありまして、それがめちゃくちゃかっこ良かったんです。それを見たのが5〜6歳、まんまとバンダイの戦略にはまったんですけど(笑)。話が分からないながらも普通のあれがすごくかっこ良くて組んだ記憶があります。
VETHEL 音楽活動とガンプラ制作って、自分の中で共通してる部分ってありますか?
onoyutaka 結構これDTMの方に共通点があると思っていて。録音とかトラックとかで素材を取り揃えて、それを綺麗にして曲として組み上げていくっていうこの作業工程が、ガンプラのパーツを切り出して整えて組み上げていくっていう工程すごく似てるなって思って。なので、どちらかというと共通っていうより、もはや同一なんじゃないかってぐらい。完成するまでも同じで、作曲段階での設計図って作るじゃないですか? それも取り扱い説明書と同じ枠に入るのかなって思ってて。
VETHEL 色を塗るのは弟さんだっていう話でしたが、onoyutakaは曲も誰かにアレンジしてもらって完成する? それとも曲は自分で完成させる?
onoyutaka ミックスも今は自分でやってるんですけど、とはいえ技量が足りないところも出てくるので、そこの人に頼んだりとかっていうふうになってくると、そこも含めて全く一緒だって思います(笑)。



あえて言おう、ガンプラは自由だ
VETHEL 「音楽は自由である」というonoyutakaさんの哲学と、ガンプラ作りの自由度にはどんな共鳴を感じますか?
onoyutaka ガンプラを題材にした『ガンダムビルドファイターズ』っていうのがあるんです。ガンプラを自分で組んで、どんどんアレンジしてって、それで戦うっていう熱血バトルアニメ。その中の一言に「あえて言おう、ガンプラは自由だ!」っていうセリフがモロに出てくるんです(笑)。そんなセリフがあるほどなので、両者の間に自由に発想して創造してっていうところがかなり共鳴するんじゃないかなって思いますね。
VETHEL ガンプラコミュニティの中では、ガンプラは割と何やっても許される?
onoyutaka そもそもいろいろミキシングしたりっていうのもあるんですけど、プラ板から全部1人で切り貼りしていって、フルスクラッチするっていうのがあるんですよ。なので、どんなものでも作れる。
VETHEL そこはそんな色は塗らないじゃんみたいなことはない?
onoyutaka ないですね。逆にそういう色がそこに入る!?っていうのがあると、そのワンポイントでめちゃくちゃかっこいいんだけど〜っていうのが出るんですよ。
VETHEL ガンプラ、そんなに自由なんですね。
onoyutaka 倫理に基づいてやってくださいっていう感じ。それだけ守ればなんでいいんです。



オーソドックスだけどありとあらゆる戦局に対応できる
VETHEL もしご自身の楽曲をガンプラに例えるなら、どんな機体やシリーズに近いと思いますか?
onoyutaka これいろいろ考えて、僕F90が一番近いんじゃないかなって思います、F91ってあるじゃないですか。宇宙世紀の最後の方に出てくるF91、あれの前軽機があるんです。フォーミュラ計画の一環でS90っていう小さい簡単なタイプのものが出来上がるんですけど、装備もすごく簡素で。なんですけど、そのF90計画の中に、ありとあらゆる戦局に対応できるように、いろんな装備バリエーションがあるっていう機体なんです。しかも100とかあるんですよね。めちゃくちゃ多い。それも含めて自分がやってる音楽も、ピアノとギターとストリングスとドラムみたいな、すごくオーソドックスなものをやってるんですけど、それ以外にもEDMの要素も取り入れてみたり、いろんなクリエイターさんとコラボして、いろいろなジャンルに触れる機会も多くなってきて、いろいろオールマイティに立ち回れるんじゃないかなっていうのも含めて、F90が一番近いんじゃないかなと思いました。
VETHEL 基本はシンガーソングライターそこに今おっしゃったEDMを合わせるときもある。
onoyutaka シンガーソングライターなのでJポップっていうのに固まるとは思うんですけど、最近やったのはゲームのテーマ楽曲を作ろうというときに、サブベースに突っ込んむみたいなブイブイした感じにしたんです。めちゃくちゃ雰囲気が出てて、こんなん使っていいんですかとまで言ってもらえた楽曲があって。そういうのも含めていろいろ探してます。音楽に関しては自分の中でNGはないかも知れない。
VETHEL 例えばカントリーミュージックが苦手なんですよとか、ハワイアンとか無理ですねとか、そういうのはない?
onoyutaka むしろそういうのももっと勉強して、吸収していきたい。まだ未知の世界で、そこには手を突っ込んでなく、これからどんどんやっていこうっていう気持ちです。
ガンプラを作りながら音楽のアイディアが浮かぶことは……
VETHEL ガンダムシリーズの音楽から受けた影響は、ご自身の楽曲にも反映されてますか?
onoyutaka それはもう大いにあります。澤野弘之さんの楽曲だとストリングスやリズムパターン、あとSE、そういうところで、これを組み合わせるんだって参考になる点が多くて。この音ってどうやって出してるんだみたいな研究はしてます。
VETHEL 他に参考にする楽曲やアーティストはいますか??
onoyutaka 林ゆうきさん。『ガンダムビルドファイターズ』のBGM担当の方で。その方の音楽も参考になりましたね。音楽の方向性的にはもっとストリングスを強く出してるのと、、リズム感がすごくEDMに近いというか、ちょっとダンスミュージックっぽい、もっと乗れる感じがあるので参考にさせていただいてます。
VETHEL そういう劇伴はご自分でもやりたいと思いますか?
onoyutaka そうですね。やってみたいなっていうのはあります。
VETHEL ところでガンプラを作りながら音楽のアイディアが浮かぶことはありますか?
onoyutaka 実は……これないんですよ(笑)。もう作るってなったら、そんなに思い浮かばなくて。
VETHEL 作るときは無音?
onoyutaka 基本、無音です。
VETHEL ラジオつけるとか、BGM付けるとか。
onoyutaka 本当にないです。本当に無音の状態。ヤスリをかける音だけを聞いて(笑)。本当に休みの日、作るべき曲もないし、特にアイディアもそんなに思い浮かばないし、やることもないしガンプラ組みたいしやるかっつって取り掛かります。
曲は主人公を設定して作る
VETHEL では、音楽のアイディアはどういうときに浮かびますか?
onoyutaka 基本的にやろうってなってパソコンを開いてDAWを立ち上げて、とりあえずピアノから書くかってそのままパッと書き始めるんです。アイディアが降ってきて作るっていうよりも、“何を作りたくて作る”なんです。僕は基本的に主人公を設定して作るんです。その主人公の性格や生活周り、どんな友達がいて、みたいのを想像して、そこから曲を書くので……。
VETHEL 曲によっていろんな主人公がいる?
onoyutaka そうです。同じときもあるし、実体験も含めてますし、女性とか動物とか。そこを決めてから、それに付随する曲を書く膨らまして、そういう感じの作り方をしてます。そんなことそれを考えながら、DAWに向かって、それにふさわしい肉付けをしていくみたいな感じです。
VETHEL 基本ピアノからですか?
onoyutaka 最近はピアノが多いですね。DAWを立ち上げるという工程を挟んでるので、その時点でピアノになる。逆にギターを手に取って、っていうパターンもあるんですよ。それは初めからギターをメインにしたり、コードから作ろうかなっていうとき。
VETHEL ビートからというのはない?
onoyutaka ビートからはないですね。メロディとコードからですね。
あえて言おう、創作は自由だ
VETHEL ガンプラの「改造」や「ミキシングビルド」と、音楽の「編曲」や「リミックス」に似ている部分はあると思いますか?
onoyutaka 編曲は改造がまさにそれ。設計図にないものを1からプラ板で作って、自分の想像してる完成像に近づけるために作っていくっていう作業が、結局コードとリズムとあとメロディとリズムが全部あって、それにふさわしい楽器群を付け足していくという作業にはなると思うんで、すごくそれが解像に似てるんじゃないかな。ミキシングビルドは、どちらかというとリミックスよりもサンプリングの方が似てると思って、ミキシングは既存であるパーツとか、そういうのを組み合わせて自分なりの形を作っていくっていうのに対して、サンプリングも既存にある楽曲のパーツをどんどん切り貼りして作っているところがすごい似てるんじゃないかなって思います。
VETHEL 最後に音楽ファンやガンプラファンに向けて、音楽とガンプラをどう楽しんで欲しいかメッセージをお願いします。
onoyutaka これは一つしかないんじゃないでしょうか。「あえて言おう、創作は自由だ」(笑)。どちらもその自由に遊んで楽しんで、自分だけのものを追い求めると一層楽しく、いろいろ音楽とガンプラ両方とも楽しめるんじゃないかなって思います。

Interview & Text : VETHEL